
Expediaの最新トレンドレポートが「Goods Getaways」、Skyscannerが「Shelf Discovery」とそれぞれ名付けたこの旅のかたちは、お土産の主役を空港の免税店や観光地の土産物屋から、いつの間にかスーパーの陳列棚へと静かに移し替えました。米国の旅行メディアが相次いで12の店を特集し、「旅の目的そのものが食品店になる」という新しい定義が、世界のあちこちで共有され始めています。観光立国を掲げる日本にとって、コンビニや「ドン・キホーテ」がこのトレンドのど真ん中に据えられたのは、ある意味でとても自然な成り行きですよね。旅人が求める「その国そのもの」が、今はコンビニの棚の向こうに並んでいるのですから。
夜のコンビニは、ふしぎな観光名所になる
日本に旅をするなら、誰もが一度は夜のコンビニに吸い寄せられた経験をお持ちだと思います。7-Eleven、FamilyMart、Lawson——三大コンビニと、全国津々浦々に広がる「Don Quijote」、通称ドンキ。JNTO(日本政府観光局)も旅行者に向けて、コンビニをおにぎりや弁当、唐揚げ、季節のスイーツ、ドリンクが手早く揃う夜の入口として案内していると報じられています。揚げたてのFamiChiki(ファミチキ)の香ばしい匂い、缶コーヒーを片手にレジへ。駅前の軒先で湯気の立つ「肉まん」、冬になると赤い灯りで照らされる「おでん」の鍋——こうした光景は、もはや日本人だけの特権ではなくなってきているのかもしれません。Lawsonの「地域限定」商品は、旅人が北上するにつれて少しずつ表情を変えていくので、各地の小さな旅日記のようでもあります。ドンキでは食品と化粧品、日用品、お菓子、お酒が入り乱れて積み上がり、外国人旅行者向けの免税対応やインバウンド向け施策も整えられているとのこと。格式高い旅館に泊まった夜でも、ふとコンビニの灯りを見かけると、肩の荷がふっと降りるような——そんな「夜の港町」のような存在感が、訪日旅行者の間にも確実に根を下ろしているのだと感じます。海外からの旅人がコンビニの入口で一瞬迷ってから、温かい肉まんや缶の甘酒を買う瞬間にそっと立ち会えたとしたら、それだけで小さな旅のハイライトになりそうですよね。
棚を歩くことそのものが、旅のかたちになる
Los AngelesのErewhonは、セレブとのコラボスムージーや1杯20ドル近いドリンク、話題のトートバッグで知られ、まさに高級志向の「Shelf Discovery」の象徴です。H Mart、99 Ranch Market、Lotte Plaza Market、Mitsuwa Marketplaceといったアメリカのアジア系スーパーには、普段なかなか手に入らない韓国や台湾、日本のプライベートブランドや菓子が並び、食べ比べそのものが小さな旅になります。訪米旅行者にとって、Trader Joe'sの「自国では買えない」限定スナックや季節限定の商品は、まさにGoods Getawaysの申し子。スペインのMercadonaは地元民の日々の食卓を覗くような感覚で旅人を受け入れ、ロンドンに1707年から店を構えるFortnum & Masonは、何世紀もの歴史をまとった棚で旅人を迎えています。安いも高いも、派手も地味も、棚の向こうにそれぞれの国の体温が透けて見える——このトレンドの一番面白いところは、まさにそこにあると感じますね。観光地として整備された名所ではなく、「地元が普段使いしている棚」こそが、旅の新しい主役になりつつあるのです。わざわざガイドブックを開かなくても、その国のスーパーを一本覗けば、そこで暮らす人々の食の好みや、休日の過ごし方まで伝わってくる——そんなふうに、棚は小さな文化の展示室の役割を静かに担い始めています。
旅の余韻を、自宅まで持ち帰る
私たちが旅先で買い求めるものの多くは、土地の匂いと光ごと持ち帰れるもの。格式高い旅館の朝食よりも、夜の散歩の途中でコンビニにふらっと寄り道をして、その日その時作られたばかりのおにぎりやお惣菜をいただくほうが、旅の体温がずっと手元に残る気がしてなりません。スーツケースの片隅にそっと滑り込ませたお菓子や限定パッケージを、数日後の自宅のテーブルで開ける瞬間——そのとき、旅先の夜の空気や、棚の前でふと立ち止まった数分間が、ふたたび手の中でほどけていきます。「Goods Getaways」というトレンドは、旅先で出会ったささやかな発見を、帰国後の日常まで静かに連れてきてくれる——そんな新しい作法として、私たちの旅のなかに根づき始めているのかもしれません。次の一人旅では、コンビニの袋を手に、夜の温泉街をそっと歩いてみたくなります。
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