
群馬県・四万温泉の積善館は、この違いを一つの宿の中で確認できる珍しい存在だ。元禄4年、1691年に建てられた本館は、日本最古級の木造湯宿建築として現存し、湯治棟としての性格を残している。一方で、昭和11年、1936年築の山荘や、昭和61年、1986年築の佳松亭は、現代的な温泉旅館としての滞在に対応する。
つまり積善館は、湯治宿から温泉旅館へ変化してきた日本の宿泊文化を、建物とサービスの違いで見比べられる場所だ。四万温泉で宿を決めるなら、本館、壱番館、山荘、佳松亭を同じ名前の宿として一括りにせず、まず滞在の目的を決めることを推奨する。
湯治宿と温泉旅館は、そもそも目的が違う
湯治宿は、温泉地に長く滞在し、日々の入浴と休養を繰り返すための宿だ。観光の合間に一度だけ湯へ入るというより、温泉を中心に生活のリズムを組み立てる。食事や清掃、布団の扱いも、宿側がすべて整えるとは限らない。長期滞在に合わせて、宿泊者が自分でできる部分を残した簡素な仕組みが基本になる。
一方の温泉旅館は、短期の観光や保養、記念日の宿泊に向く。到着後の案内、食事の提供、布団の準備、館内サービスなど、宿泊客の負担を減らす方向に設計されている。温泉に入ることは共通していても、宿を使う時間の考え方が異なる。
| 比較項目 | 湯治宿 | 温泉旅館 |
|---|---|---|
| 主な滞在目的 | 長期的な休養、体調管理、温泉中心の生活 | 観光、短期の保養、食事や接客を含む宿泊体験 |
| 滞在日数の考え方 | 数日以上の連泊を想定しやすい | 一泊または二泊を軸に組み立てやすい |
| 食事 | 簡素な食事、弁当、自炊に近い形式 | 旅館側が用意する会食や料理 |
| 布団・清掃 | セルフサービスが入りやすい | 宿側が整える範囲が広い |
| 館内の過ごし方 | 入浴、休養、読書、散策など静かな時間 | 食事、入浴、観光、館内サービス |
| 向いている人 | 自分のペースで滞在したい人 | 到着後は手間なく過ごしたい人 |
ただし、現在の湯治宿がすべて昔のままというわけではない。現代では、火気の扱いや安全面、衛生管理の都合から、かつての自炊型湯治をそのまま再現できない施設もある。積善館の本館では火気厳禁のため、現代の湯治スタイルとして弁当形式の夕食が提供され、布団の上げ下ろしもセルフサービスとなっている。
この点は、予約前に確認しておきたいボトルネックだ。「湯治宿だから昔ながらの自炊ができる」と考えて本館を選ぶのは避けるのが無難だ。現代の設備条件に合わせた、簡素で自分の手を動かす滞在と考えると実態に近い。
湯治宿は、サービスが少ない宿ではない。温泉を中心に、宿泊者自身が滞在を組み立てる宿だ。
積善館の歴史は、湯治宿から旅籠、そして温泉旅館へ続いている
四万温泉の積善館を理解するには、建物の古さだけを見ると足りない。宿の歴史そのものが、温泉地の利用目的が変化してきた過程になっている。
積善館の始まりは、元禄4年の1691年。湯場と宿が作られ、その後、元禄7年の1694年に旅籠宿として開業したとされる。明治時代には、第15代関善兵衛によって、易経の「積善の家に余慶あり」に由来する「積善館」という名が付けられた。
現在の本館は、元禄4年に建てられた現存する日本最古級の木造湯宿建築で、群馬県の重要文化財に指定されている。古い建築を見学するための施設ではなく、今も宿泊の場として使われている点に価値がある。廊下の幅や階段の位置、部屋のつくりなどは、現代の大型旅館と同じ基準では見られない。そこには、湯治客が温泉地に滞在していた時代の寸法と生活感が残る。
その後、積善館には複数の棟が加わった。本館と壱番館は湯治棟、山荘と佳松亭は旅館棟という構成だ。異なる時代に建てられた棟を一つの宿の中で使い分けることで、湯治宿と温泉旅館の違いを、説明ではなく実際の滞在形式として選べるようになっている。
本館は、歴史を見る場所ではなく、湯治の動線に入る場所
本館の魅力は、元禄期の木造湯宿建築に泊まれることだけではない。湯治棟としての簡素さが残っていることだ。
食事は、現代の旅館で一般的な部屋食や会席料理とは異なる。火気厳禁のため自炊ではなく、弁当形式の夕食が採用されている。布団の上げ下ろしも宿泊者が行うセルフサービス形式だ。
この方式は、手厚い接客を期待する人には合わない可能性がある。しかし、宿の人に任せきりにせず、入浴と休養を自分のペースで続けたい人にとっては合理的だ。食事の時間に合わせて部屋を整え、何度もスタッフを呼ぶ必要がない。連泊時の動線も、旅館棟より自分で調整しやすい。
本館を選ぶ場合は、次のような滞在を想定しておくとよい。
- 到着後、館内の古い建築を歩いて確認する時間を取る
- 食事の形式を豪華さではなく、温泉中心の生活に合うかで判断する
- 布団の上げ下ろしなど、セルフサービスを負担ではなく滞在の一部と考える
- 階段や廊下、部屋のつくりに現代旅館と同じ使いやすさを求めない
- 建築を見に行くだけでなく、早めに宿へ入り、館内で過ごす時間を確保する
本館は、四万温泉周辺を車で広く回るための基地として使うより、宿そのものと温泉を主目的にした方が満足度を組み立てやすい。到着が遅くなれば、建物の特徴を確認する時間も、複数の浴場を回る余裕もなくなる。山間部の温泉地では、観光スポットを詰め込むほど帰着時刻が読みにくくなるため、宿泊日に長距離の寄り道を重ねるのは避けるのが無難だ。
壱番館は、湯治棟の性格を残しながら選択肢を広げる
積善館では、本館だけでなく壱番館も湯治棟に位置付けられている。湯治宿としての簡素な滞在を選びたいが、元禄期の本館とは別の条件も見ておきたいという場合に、比較対象になる。
ここで大切なのは、棟の名前だけで優劣を決めないことだ。同じ湯治棟でも、部屋の位置、館内移動、食事会場や浴場までの距離によって使い勝手は変わる。予約時には、宿泊する棟がどこかを確認し、写真だけでなく館内の動線を想像することを推奨する。
特に車で訪れる場合、荷物の量が多い人や高齢者と同行する人は、駐車後の移動を含めて考える必要がある。温泉地の宿では、駐車場から客室までが平坦とは限らない。チェックイン後に大きな荷物を持って複数の棟を移動することになれば、入浴前に体力を使う。荷物を絞る、館内案内を先に確認する、必要なら宿へ相談する。この三つだけでも、到着時の混乱は減らせる。
山荘と佳松亭は、温泉旅館としての快適さを優先する選択
積善館の旅館棟にあたるのが山荘と佳松亭だ。こちらは、湯治棟のセルフサービスを中心に据えた滞在とは考え方が異なる。観光や記念日の宿泊、到着後の手間を減らしたい旅に向く。
山荘は、昭和初期の建築と旅館サービスの接点
山荘は昭和11年、1936年に建てられた木造建築だ。国の登録有形文化財、群馬県近代化遺産に指定されており、組子障子など昭和初期の名工の技を感じられる建物でもある。
本館が元禄期の湯治建築なら、山荘は近代の温泉旅館が形を整えていく時期の建物だ。古さの方向が違う。本館には湯治場としての原型があり、山荘には旅館としての設えと、建築を楽しませる意匠がある。
山荘を選ぶ理由は、単に本館より新しいからではない。温泉地の歴史を感じつつ、旅館らしいサービスを受けたいという人にとって、両方のバランスを取りやすい点にある。
向いているのは、次のような旅だ。
- 古い木造建築や組子障子を見たい
- 食事や接客を含めて温泉旅館らしく過ごしたい
- 本館の湯治形式よりも、宿側に任せる範囲を広げたい
- 一泊の中で、観光と宿泊の両方を無理なく成立させたい
- 旅館の雰囲気を重視しつつ、歴史的な空間にも入りたい
佳松亭は、移動の負担を抑えたい人に候補になる
佳松亭は昭和61年、1986年築の旅館棟だ。歴史的建築そのものを主目的にする本館や山荘とは違い、現代の宿泊に合わせた快適性を優先しやすい。
温泉宿選びでは、最も古い棟を選べば満足できるとは限らない。同行者が建築に関心を持っているとは限らず、階段や室内設備、食事の形式が旅の負担になることもある。運転で長く移動した日の夜は、宿に着いてからの動線が短いほど助かる。荷物を置き、食事を取り、入浴して休む。この流れを崩したくないなら、旅館棟を候補にする方が現実的だ。
佳松亭を選ぶときは、歴史的な本館を見学する時間を別に確保するとよい。宿泊棟の快適さと、積善館の歴史を感じることは両立できる。すべてを古い建物の客室で体験しなければ、旅の価値が下がるわけではない。
「湯治と温泉旅館、どっちがよいか」は滞在時間で決める
湯治宿と温泉旅館の違いを考えるとき、料金や建築の好みから入ると判断がぶれやすい。先に決めるべきなのは、宿で何時間過ごすかだ。
朝から周辺観光へ出て、夕方に戻り、夕食後に一度入浴して眠る。この流れなら、温泉旅館のサービス体系が合いやすい。宿の中で過ごす時間が短いからだ。食事や布団の準備を自分で行うより、到着後の手続きを少なくして休む方が合理的になる。
逆に、昼過ぎには宿へ入り、浴場を回り、部屋で休み、翌朝も温泉に入る。周辺の観光を一か所か二か所に絞り、宿泊そのものを旅の中心に置くなら、湯治棟の性格が生きてくる。
判断の軸は次の通りだ。
1. 宿に入る時刻を早くできるか
湯治型の滞在は、到着が遅いと特徴を活かしにくい。夕方以降に到着する計画なら、旅館棟の方が扱いやすい。
2. 食事に何を求めるか
料理を旅の主役にしたいなら、旅館棟を推奨する。食事を簡素にして入浴や休養に時間を回したいなら、湯治棟が候補になる。
3. セルフサービスを受け入れられるか
布団の上げ下ろしや弁当形式の食事に抵抗があるなら、本館の選択は慎重にしたい。歴史的価値だけで決めると、滞在中に不満が出る。
4. 同行者の目的が揃っているか
一人旅なら自分のペースで決められるが、家族旅行では意見が分かれやすい。建築を見たい人と、サービスを重視する人が一緒なら、旅館棟を拠点に館内を歩く方法もある。
5. 車での移動をどこまで残すか
四万温泉までの運転が長くなる場合、到着後にさらに周辺を走り回る計画は詰め込みすぎになりやすい。宿の滞在時間を確保し、翌日に散策や寄り道を回す方が安全だ。
積善館で棟を選ぶ作業は、部屋の格付けを選ぶことではない。自分が温泉地でどう時間を使うかを選ぶ作業だ。
車で向かうなら、到着後の動線まで予約前に考える
四万温泉のような山間の温泉地は、目的地に着いた時点で旅が終わるわけではない。宿の入口、駐車場所、荷物の搬入、チェックイン、客室、浴場という動線をまとめて考える必要がある。
運転手が見落としやすいのは、観光地までの所要時間ではなく、宿に入ってからの数十分だ。夕食の時間に遅れないよう急いで荷物を運び、慣れない館内を歩き、浴場の場所を探す。これでは、湯治でも旅館泊でも本来の目的から外れてしまう。
積善館のように複数の棟で構成される宿では、予約棟の確認が特に重要だ。積善館という一つの宿名で予約していても、実際の客室が本館、壱番館、山荘、佳松亭のどこにあるかで、建物の雰囲気もサービス体系も変わる。
出発前に整理しておきたい項目は以下の通り。
- 宿泊棟の名称
- 駐車場から宿の入口までのアプローチ
- 荷物を先に降ろせる場所の有無
- チェックインの時刻と夕食の開始時刻
- 食事会場や浴場までの移動
- 本館や山荘など、宿泊棟以外を見学できる範囲
- 冬季や雨天時に必要な履物、上着、傘
- 運転終了後に再び車を動かす必要があるか
現地での駐車場所や館内の細かな利用条件は、予約時点の案内を優先したい。設備や運用は変更されることがあるため、古い旅行記だけで判断するのは避けるのが無難だ。
周辺観光を詰め込みすぎない
四万温泉を訪れる場合、宿の歴史を見たいのか、温泉街を歩きたいのか、周辺観光を回りたいのかで、適正な工程が変わる。
積善館の本館や山荘を見て、浴場にも入り、温泉街を散策し、さらに遠方の観光地へ向かう。これは地図上では可能に見えても、実際には駐車や荷物の積み下ろしで時間を使う。夕食時刻が固定されている場合、最後の移動がボトルネックになる。
初日は移動と宿への到着を優先し、翌朝に温泉街を歩く構成を推奨する。歩く時間を確保すれば、車を短距離移動のために何度も出し入れする必要も減る。四万温泉の旅は、車で場所をつなぐより、宿を起点に歩ける範囲を残した方が土地の雰囲気を感じやすい。
湯治宿の現代的な過ごし方
昔の湯治というと、長期滞在と自炊を思い浮かべる人が多い。しかし、現代の湯治宿は必ずしもその形式を完全に残しているわけではない。積善館本館では火気厳禁のため、炭やガスを使った自炊はできない。代わりに、弁当形式の夕食やセルフサービスの布団など、現代の条件に合わせた滞在形式が採用されている。
ここを不便と見るか、湯治の本質に近いと見るかは、宿泊者の考え方による。
部屋に豪華な料理が運ばれ、布団も自動的に整えられる旅館では、宿泊者は宿のサービスに合わせて過ごす。湯治型の宿では、入浴の時間、食事のタイミング、部屋で休む時間を自分で決める。サービスを減らすことで、宿泊者の選択肢が増える面もある。
ただし、湯治を体調改善の結果が保証されるものとして考えるのは適切ではない。温泉への入り方や滞在時間は、体調や季節によって変わる。無理に何度も入浴するのではなく、休憩を挟み、水分を取り、体に負担を感じたら切り上げる。治療中の人や持病がある人は、必要に応じて医療専門家へ相談するのが安全だ。
湯治宿での過ごし方は、次のように組み立てると無理がない。
- 到着日は移動後すぐに長湯せず、館内を確認してから入浴する
- 一度の入浴時間を欲張らず、部屋で休む時間を確保する
- 食事の形式を事前に把握し、必要な飲み物や身の回り品を準備する
- 館内の浴場を回る場合も、移動時間と休憩時間を残す
- 翌朝の入浴や散策を前提に、夜の予定を詰め込みすぎない
この過ごし方なら、本館のセルフサービスも単なる省力化ではなく、温泉中心の時間を作る仕組みとして理解できる。
1泊なら温泉旅館、連泊や宿中心なら湯治棟が扱いやすい
棟選びで迷ったら、宿泊日数を基準にすると判断しやすい。
一泊旅行で、移動距離が長く、周辺観光も入れる場合は、山荘や佳松亭などの旅館棟を選ぶ方が動線を組みやすい。到着後の作業が少なく、食事や布団の扱いに気を取られずに済むからだ。
連泊して、宿と温泉を中心に過ごすなら、本館や壱番館の湯治棟が候補になる。毎日観光へ出る必要がなく、部屋で休む時間を確保しやすい。自分でできる作業を受け入れられるなら、湯治宿らしい滞在を実感しやすい。
一方で、連泊だから必ず湯治棟というわけでもない。同行者が旅館サービスを求めるなら、旅館棟に泊まりながら入浴と散策を中心にする方法もある。湯治は棟の名前だけで決まるのではなく、滞在の組み立て方で決まる部分が大きい。
目的別の選び方
| 旅の目的 | 推奨しやすい棟 | 理由 |
|---|---|---|
| 元禄期の木造湯宿建築に泊まりたい | 本館 | 日本最古級の木造湯宿建築で、湯治棟としての性格が残る |
| 自分のペースで温泉中心に過ごしたい | 本館・壱番館 | 湯治棟として、セルフサービスを含む滞在に対応 |
| 歴史的建築と旅館らしいサービスを両立したい | 山荘 | 昭和11年築の木造建築と手厚い旅館サービス |
| 宿泊中の快適さと移動のしやすさを優先したい | 佳松亭 | 現代の温泉旅館としての滞在を組み立てやすい |
| 一泊で観光と宿泊をまとめたい | 山荘・佳松亭 | 到着後の手間を抑え、時間を読みやすい |
| 長めに滞在して入浴や休養を軸にしたい | 本館・壱番館 | 湯治型の過ごし方に合わせやすい |
これは棟の価値を順位付けした表ではない。古い建物が上で、新しい建物が下という話でもない。旅の目的と建物の性格が合うかどうかの問題だ。
四万温泉の歴史を感じるなら、宿泊棟以外も歩いて見る
積善館の特徴は、複数の時代の建物が一つの施設に残っていることだ。元禄期の本館、昭和初期の山荘、昭和末期の佳松亭。それぞれの棟が、湯治宿と温泉旅館の変化を示している。
本館だけを見て「古い宿」と判断すると、積善館の全体像を取り逃がす。湯治棟と旅館棟の違いを実際に歩いて確認することで、なぜ同じ温泉宿の中に異なるサービス体系があるのかが分かる。
歩くときは、建物の装飾だけでなく、次の点にも目を向けたい。
- 客室から浴場までの距離と廊下の構成
- 食事を取る場所と客室の関係
- 階段や廊下の幅、棟ごとの移動方法
- 木造建築の意匠と、現代的な設備との組み合わせ
- 宿泊者が自分で行う作業と、宿側が担うサービスの違い
山荘では組子障子など、昭和初期の職人技を確認できる。ここは、古いから価値があるというより、旅館が宿泊者を迎えるためにどのような空間を作ってきたかを見る場所だ。
一方、本館では、湯治客の生活を支えるための建築がどのように残っているかを感じ取れる。部屋で長く過ごし、浴場へ通い、食事を簡素に済ませる。その動線に合わせた宿の構成だ。
建物の見学は、荷物を持ったまま急いで行うより、チェックイン後に身軽な状態で行う方がよい。浴場の場所も同時に確認しておけば、夜の移動で迷いにくい。古い建築では、現代の大型ホテルのようにすべてが一直線につながっているとは限らない。館内のアプローチを先に把握しておくと、入浴と休憩の切り替えがスムーズになる。
積善館を選ぶときに起こりやすい三つのずれ
1. 建物の写真だけで本館を選ぶ
本館の外観や歴史に惹かれて予約するのは自然だ。しかし、建物の印象と客室での過ごしやすさは別の話になる。
セルフサービス、弁当形式の夕食、火気厳禁という条件を理解しないまま泊まると、「思っていた旅館と違う」という結果になりやすい。本館を選ぶなら、設備の新しさより、歴史的建築と湯治型の滞在を優先する意思が必要だ。
2. 温泉旅館に泊まりながら観光を詰め込む
旅館棟を選んだからといって、到着時刻が遅くても問題ないとは限らない。夕食の時間、入浴、翌朝の出発準備を考えると、宿に入ってから使える時間は意外に短い。
四万温泉までの運転に加え、到着後も遠方の観光地へ向かう計画は、天候や道路状況で崩れやすい。初日は宿の到着を優先し、観光は翌日に回す方が安全なケースが多い。
3. 同行者の希望を棟選びに反映していない
一人なら本館のセルフサービスも自分の判断で受け入れられる。しかし、家族や友人との旅行では、食事、寝具、移動、建物の古さに対する感じ方が違う。
予約前に、同行者へ次の点を共有しておくことを推奨する。
- 本館や壱番館は湯治棟であること
- 本館では弁当形式の夕食とセルフサービスが採用されていること
- 山荘と佳松亭は旅館棟としての性格が強いこと
- 宿泊棟によって、建物の雰囲気と過ごし方が変わること
- 温泉街や館内を歩く時間を確保する計画であること
全員が同じ価値観でなくてもよい。ただし、知らないまま予約すると不満になる。違いを理解したうえで選べば、棟ごとの個性を旅の分担として楽しめる。
運転手目線で組む、積善館の1泊2日
具体的な時刻は出発地や道路状況で変わるため、固定の分単位で計画するより、時間帯で組む方が実用的だ。
初日
午前から昼過ぎ:移動を優先
出発地から四万温泉までの走行時間に余裕を持たせる。途中の食事や休憩を省くと、到着前に集中力が落ちる。山間部では、到着直前に給油や買い出しを済ませるつもりで計画するより、必要なものを早めに整えておく方が安心だ。
午後:宿へ到着、荷物を整理
駐車後は、まず荷物を客室へ運ぶ。宿泊棟を間違えると、館内を余計に歩くことになるため、チェックイン時に棟の位置と浴場、食事場所を確認する。
夕方:館内を歩く
本館に泊まる場合は、歴史的建築の見どころを確認する。山荘や佳松亭に泊まる場合も、宿泊棟以外を歩ける範囲で見ておくとよい。夕食前に浴場の位置を把握しておけば、夜の動線が軽くなる。
夜:食事と入浴、休養
本館では弁当形式の夕食とセルフサービスを前提にする。旅館棟では食事の時間を軸に、入浴を前後へ配置する。移動日の夜に何度も湯へ入ろうとせず、体調に合わせて一度を基本にする方が無理がない。
二日目
早朝:入浴または休養
朝の入浴を予定する場合は、起床後の体調を見て決める。湯上がりにすぐ運転するのではなく、身支度と休憩の時間を残す。
午前:温泉街や周辺を徒歩で確認
車を出す前に、宿の周辺を歩く。短い散策でも、道路から見た温泉地と、歩いて見た温泉地では印象が変わる。駐車場の混雑を避ける意味でも、歩ける場所は徒歩で回す方が動線を整理しやすい。
昼前後:出発
帰路の途中で立ち寄りを入れる場合は、最初から一か所か二か所に絞る。帰宅時刻を優先し、疲労が出たら予定を削る。温泉旅行は、最後の運転まで含めて成立する。
予約前に確認するべきことは、建物の古さより滞在形式
湯治宿と温泉旅館の違いを比べるとき、説明文に「歴史」「秘湯」「木造」といった言葉が並ぶと、建物の魅力に意識が集中する。しかし、実際の満足度を左右するのは、滞在形式との相性だ。
積善館の場合、少なくとも次の確認を推奨する。
- 本館、壱番館、山荘、佳松亭のどこに泊まるのか
- 湯治棟か旅館棟か
- 食事の提供形式
- 布団の上げ下ろしなどセルフサービスの範囲
- 火気厳禁であることを踏まえた食事環境
- 館内の階段や棟間移動
- 到着時刻と夕食時刻の関係
- 車を停めてから客室へ向かうまでのアプローチ
- 同行者が本館の古さやセルフサービスを受け入れられるか
この確認をしておけば、湯治棟を選んだこと自体が問題になるケースは少ない。本館の価値は、現代の旅館と同じ快適さを提供することではなく、古い湯宿建築と湯治型の過ごし方を現在の条件の中で体験できることにある。
反対に、接客や料理、設備の快適さを最優先するなら、旅館棟を選ぶ方が目的に合う。山荘は昭和初期の木造建築と旅館サービスを両立しやすく、佳松亭は現代的な温泉旅館としての使いやすさを重視しやすい。選択肢が複数あることこそ、積善館の強みだ。
まとめ:積善館は、宿泊棟ごとに異なる旅を選べる
湯治宿と温泉旅館の違いは、温泉の種類だけで決まらない。滞在の目的、食事の形式、セルフサービスの有無、宿泊者と宿の役割分担が違う。
積善館では、本館と壱番館が湯治棟、山荘と佳松亭が旅館棟という構成になっている。本館は、元禄4年、1691年築の日本最古級の木造湯宿建築で、現代の湯治スタイルを体験しやすい。自炊ではなく弁当形式の夕食、布団の上げ下ろしなど、現在の安全条件に合わせたセルフサービスが特徴だ。
山荘は1936年築の木造建築で、組子障子など昭和初期の意匠と旅館サービスを楽しめる。佳松亭は1986年築の旅館棟として、移動や滞在の快適さを優先したい人に向く。
一泊で観光を組み込みたいなら旅館棟、宿と温泉を中心に自分のペースで過ごしたいなら湯治棟を推奨する。ただし、最終的には同行者の希望と、到着後に使える時間で決めるべきだ。
車で訪れる場合は、宿への到着を急ぎすぎず、駐車後の荷物運び、棟間の移動、食事、入浴までを一つの動線として設計したい。積善館は、古い宿に泊まるだけの場所ではない。湯治宿が温泉旅館へ変わってきた過程を、建物とサービスの違いから読み取れる宿だ。
棟の性格を理解して選べば、本館の簡素さも、山荘の意匠も、佳松亭の快適さも、それぞれ旅の目的に合わせて活かせる。迷ったときは、最も古い部屋ではなく、自分が温泉地でどのように時間を使いたいかを基準にするのが無難だ。
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