
しかも、広告や宿の紹介文では、これらの表現が温泉法上の決まった用語であるかのように使われることがあります。ここが、温泉選びを少し難しくしているところです。
「源泉かけ流し」は、法律に定められた温泉の種類ではありません。「源泉100%」も、全国の宿が同じ基準で表示している統一された法的表示とは限りません。言葉の印象だけで判断すると、実際の湯使いとは違う受け止め方をしてしまう可能性があります。
一方で、温泉には、利用者が確認できるように掲示が義務づけられている項目があります。加水しているのか、加温しているのか、循環・ろ過を行っているのか、入浴剤や消毒を使っているのか。宿選びで本当に頼りになるのは、目立つ宣伝文句だけではなく、浴場や公式サイトにあるこうした表示です。
言葉の響きに振り回されず、湯がどのように浴槽へ届き、どのように管理されているのかを読み取る。その視点を持つと、「源泉100%」と「源泉かけ流し」の違いは、かなり整理しやすくなります。
温泉法が定める「温泉」の定義と表示の法的根拠
「温泉」と呼ばれるための条件
そもそも、何をもって温泉と呼ぶのでしょうか。
日本では、温泉法によって温泉の定義が定められています。地中から湧き出す温水、鉱水、水蒸気、その他のガスのうち、一定の条件を満たすものが法律上の「温泉」です。
代表的な条件は、次のどちらかです。
- 源泉から湧き出したときの温度が25℃以上であること
- 温度が25℃未満でも、温泉法で定められた特定の成分を一定量以上含んでいること
つまり、温泉は必ずしも「熱い湯」でなければならないわけではありません。25℃未満でも、含まれる成分によっては温泉に該当します。反対に、温度が高いからといって、浴槽でどのように使われているかまで自動的に決まるわけでもありません。
ここを分けて考えることが大切です。
温泉法が定めているのは、まず、地下から湧出したものが温泉に該当するかどうかという入口の条件です。その温泉を宿が浴槽へどう引き、どのように温度を調整し、衛生を保っているかは、別の情報として確認する必要があります。
温泉の成分は、泉源の場所や地質によって異なります。硫黄、炭酸水素イオン、メタケイ酸など、温泉の特徴を示す成分が含まれることもありますが、浴槽に入ったときの印象は、成分だけでなく温度、湯量、浴槽の大きさ、換気、入浴時間によっても変わります。
「温泉だから、どこでも同じように楽しめる」と考えるよりも、源泉の性質と、宿での使い方を一緒に見るほうが、実際の入浴体験に近づきます。
掲示が義務づけられている理由
温泉を公共の浴用や飲用に利用する施設には、利用者に対して温泉の情報を掲示することが求められています。掲示の目的は、温泉の成分や禁忌症を知らせることだけではありません。源泉を浴槽で使う際に、どのような処理をしているかを明らかにすることにもあります。
宿の浴場や脱衣所に掲示されている温泉分析書、温泉利用の案内には、次のような情報が記載されています。
- 温泉の源泉名や所在地
- 泉質、主な成分
- 源泉の温度
- 浴槽での利用方法
- 加水の有無
- 加温の有無
- 循環・ろ過の有無
- 入浴剤や消毒の使用状況
- 入浴上の注意や禁忌事項
施設によって掲示場所や書式は異なりますが、見るべき項目はそれほど多くありません。浴場の入口に長い説明書きがあっても、まずは湯の利用方法に関する部分を探してみるとよいでしょう。
公式サイトに「源泉かけ流し」とだけ書かれていて、加水や循環の説明が見当たらない場合もあります。そのときは、浴場の掲示や宿への問い合わせで確認するのが確実です。表示がないことを理由に、すぐに問題のある宿だと判断する必要はありません。ただ、広告の一言だけでは湯使いの全体像が分からない、と考えておくことは大切です。
温泉法が定めるのは「温泉とは何か」という土台です。浴槽でどう使われているかは、掲示の中に答えがあります。
「源泉かけ流し」は、法律の言葉ではない
中心にあるのは「浴槽の湯を循環させない」こと
「源泉かけ流し」という表現は、温泉宿の紹介で広く使われています。しかし、温泉法の条文に「源泉かけ流し」という言葉の定義が置かれているわけではありません。
一般的には、源泉から引いた新しい湯を浴槽へ注ぎ、浴槽からあふれた湯を排出して、同じ湯を循環利用しない方式を指します。施設によって表現は異なりますが、考え方の中心は、浴槽内の湯を循環させて再利用するかどうかです。
循環式の浴槽では、浴槽から回収した湯をろ過し、加温し、再び浴槽へ戻す設備が使われます。湯量を安定させやすく、温度管理や衛生管理を行いやすいという利点があります。一方、かけ流しでは、新しい湯を継続的に供給し、あふれた湯を浴槽へ戻さないことが基本になります。
ただし、かけ流しだからといって、すべての処理が一切ないとは限りません。源泉の温度や湯量、施設の衛生管理方針によって、加温、加水、消毒を行う場合があります。
ここで「かけ流し」という言葉だけを見て、加水も加温も消毒もないと受け取ってしまうと、表示の意味を広げすぎることになります。
「源泉かけ流し」と「完全放流式」の関係
温泉関係の説明では、「放流式」「完全放流式」といった言葉が使われることがあります。これらも、施設や団体によって表現の細部に違いはありますが、浴槽の湯を循環させず、排出する方式を示すための言葉です。
重要なのは、源泉が浴槽へ入っているかだけではありません。浴槽から出た湯がどこへ行くのか、そして一度使った湯が再び浴槽へ戻されていないかを見る必要があります。
例えば、浴槽の湯口から常に湯が出ていても、浴槽の底から湯を回収して循環させている場合があります。見た目だけでは、かけ流しか循環式か分かりにくいこともあります。
反対に、浴槽から湯が静かにあふれていても、それだけで加水なし、加温なし、消毒なしと決まるわけではありません。あふれた湯を再利用していないことと、源泉にどんな処理をしているかは、別々に確認する必要があります。
かけ流しでも加水・加温が行われることがある
源泉の温度は、宿が自由に決められるものではありません。非常に高温の源泉もあれば、そのままでは入浴に向かない温度の源泉もあります。
高温の湯を適温にする方法として、加水が使われることがあります。源泉に水を加えるため、成分濃度は変化しますが、湯温を下げるには分かりやすい方法です。冷たい源泉や、季節によって湯温が下がる源泉では、加温が必要になることもあります。
これらの処理があっても、浴槽の湯を循環させていなければ、施設側が「かけ流し」と表現することはあります。だからこそ、表示の確認では、「かけ流しかどうか」と「加水・加温があるか」を分けて読む必要があります。
「かけ流し」は、まず循環の有無を見る言葉です。加水や加温の有無まで、ひとまとめに判断しないほうが表示を正確に読めます。
「源泉100%」が意味するもの
法律で統一された表示ではない
「源泉100%」という表現を見ると、源泉がそのまま浴槽に満たされているイメージを持ちます。実際、多くの宿では、源泉に別の水を加えていないことや、温泉以外の湯で成分を薄めていないことを伝えるために、この言葉を使っています。
ただし、「源泉100%」という表現そのものに、全国共通の細かな法的定義があるわけではありません。どこまでを100%と呼ぶのか、温度調整をどう扱うのか、消毒やろ過を行っている場合にどう表示するのかは、施設の説明や表示内容を確認する必要があります。
ここは「源泉かけ流し」と同じく、言葉の印象だけで決めつけないほうがよいところです。
一般的な読み方としては、次のように整理できます。
- 「源泉100%」は、加水をしていないことを強調する表示として使われることが多い
- 「源泉100%」だけでは、循環・ろ過をしていないとは限らない
- 「源泉100%かけ流し」と書かれている場合は、加水なしと循環なしの両方を示そうとしている可能性がある
- それでも、加温や消毒の有無は別途確認が必要
つまり、「源泉100%」は主に湯の希釈や成分の保ち方に関わる言葉であり、「かけ流し」は浴槽内の湯の流し方に関わる言葉、と考えると分かりやすくなります。
源泉の成分を薄めないための温度管理
源泉100%を掲げる宿では、加水以外の方法で温度を調整している場合があります。
例えば、熱交換器を使って、源泉と別の水を混ぜずに熱だけを移す方法があります。源泉そのものに水を加えないため、成分を薄めずに湯温を調整できます。また、源泉を浴槽へ送るまでの配管を工夫したり、浴槽の大きさや湯量を調整したりして、入りやすい温度に近づけることもあります。
ただし、熱交換器を使っているからといって、必ずしも「源泉の状態が完全にそのまま」と言い切れるわけではありません。温度が変われば、浴槽で感じる湯の印象も変わりますし、源泉から浴槽までの距離や時間によっても状態は変化します。
それでも、加水による希釈を避けながら入浴しやすい温度を目指す方法として、熱交換は合理的です。温泉の成分を大切にしながら、利用者が無理なく入れる湯温をつくる。そこには、単に宣伝文句を掲げるだけではない、施設側の設備と管理の工夫があります。
「100%」でも、温泉のすべてが同じとは限らない
「源泉100%」と表示されていると、源泉の力がそのまま強く感じられると思うかもしれません。しかし、温泉の濃さや入り心地は、成分量だけで決まりません。
源泉の成分は、時間の経過や空気との接触によって変化することがあります。浴槽へ注ぐ湯量が少なければ、浴槽内での滞留時間が長くなることもあります。湯口から出たばかりの湯と、浴槽の中でしばらく時間が経った湯では、香りや肌ざわりが違って感じられる場合もあります。
また、同じ源泉を使っていても、浴槽の広さや深さ、湯口の位置、排湯の構造によって、湯の動きは異なります。源泉100%という表示は、湯に何を加えているかを見るうえで有用ですが、それだけで浴場全体の質や好みまで判断できるものではありません。
二つの表示を並べて読む
「源泉かけ流し」と「源泉100%」は、重なる部分もありますが、強調している点が違います。
| 観点 | 源泉かけ流し | 源泉100% |
|---|---|---|
| 主に示すこと | 浴槽の湯を循環再利用していないこと | 源泉に水を加えて薄めていないこと |
| 温泉法上の統一定義 | ない | ない |
| 加水 | 施設の解釈により、行われる場合がある | 行わないことを示す場合が多い |
| 加温 | 行われる場合がある | 表示だけでは判断できない |
| 循環・ろ過 | 行わないことを示す場合が多い | 表示だけでは判断できない |
| 消毒 | 行われる場合がある | 表示だけでは判断できない |
| 確認すべき情報 | 循環・ろ過、加水、加温、消毒 | 加水、循環・ろ過、加温、消毒 |
この表から分かるように、二つの言葉だけでは情報が足りません。
「源泉かけ流し」とあれば、まず循環・ろ過の有無を見る。「源泉100%」とあれば、まず加水の有無を見る。そのうえで、温度をどのように整えているか、消毒を行っているかを確認する。この順番なら、表示を必要以上に難しく考えずに済みます。
「源泉100%かけ流し」という表現も、二つの特徴を組み合わせているだけで、法律上の特別な区分になるわけではありません。宿がその言葉で何を伝えようとしているのかを読み、掲示内容と照らし合わせることが必要です。
宿選びで確認したい4つの掲示項目
温泉の表示を読むとき、最初から泉質名や成分表を細かく覚える必要はありません。まずは、浴槽でどんな処理が行われているかを示す4項目に注目すると、湯の実態が見えやすくなります。
1. 加水
加水は、源泉に水を加えることです。主な目的は、湯温を下げることや、湯量を調整することです。
加水がある場合、浴槽に入っている湯は、源泉だけではありません。水の量が多いか少ないかにかかわらず、源泉そのものと比べれば成分濃度は変わります。
ただし、加水があること自体を、直ちに悪いと考える必要はありません。高温の源泉を安全に入浴できる温度へ調整するために、加水が現実的な選択になることもあります。
「源泉100%」を重視する人は加水なしを選ぶ。「熱すぎない湯にゆっくり入りたい」人は、加水による温度調整を許容する。その違いは、優劣というより好みの違いです。
2. 加温
加温は、源泉や浴槽の湯を温めることです。源泉の温度が低い場合や、外気温によって湯温が下がる場合に行われます。
加温と、湯温を下げるための冷却は別の処理です。熱交換器を使って温度を下げる方法や、配管・浴槽の構造で自然に冷ます方法があっても、それは通常、加温とは呼びません。
源泉かけ流しの宿でも、源泉の温度が入浴に適さなければ加温することがあります。加温しているから循環式、ということでもありません。源泉を新しく注ぎ、浴槽から排出しているなら、加温されたかけ流しという形もあり得ます。
ここで確認したいのは、加温の有無だけでなく、どの段階で加温しているかです。源泉を浴槽へ送る前に加温するのか、浴槽全体の温度を機械で保つのかによって、湯の管理方法は変わります。
3. 循環・ろ過
循環・ろ過は、浴槽の湯を回収し、ろ過や加温などを行ったうえで、再び浴槽へ戻す仕組みです。
大浴場や利用者の多い施設では、湯温を保ち、湯を安定して供給するために循環設備が使われることがあります。循環式は衛生管理や設備管理を行いやすい一方、浴槽へ入る湯が常に源泉から出たばかりの新湯とは限りません。
「源泉を使用している」と「源泉かけ流し」は同じではありません。源泉を循環設備に通して使っている場合もあるため、ここは必ず分けて考えます。
かけ流しを重視するなら、掲示で循環・ろ過の有無を確認するのが基本です。公式サイトに「源泉使用」とだけ書かれている場合は、循環の有無まで読み取れないため、浴場の表示を見たほうが安心です。
4. 入浴剤・消毒
入浴剤や消毒についても、表示を確認しておきたい項目です。
入浴剤は、香りや色を整える、浴感を変える、施設の演出を加えるといった目的で使われることがあります。天然温泉の成分だけを楽しみたい人にとっては、気になる情報かもしれません。
消毒は、衛生管理のために行われます。多くの人が利用する浴槽では、衛生状態を保つための管理が欠かせません。消毒があることを、温泉の価値が下がった証拠のように扱うのは適切ではありません。
温泉らしい香りや肌ざわりを優先する人と、衛生面の安心を優先する人では、表示の受け止め方が異なります。消毒の有無は、源泉かけ流しかどうかとは別の軸で確認しましょう。
掲示を見るときの読み方
4項目を見つけたら、次の順で整理すると迷いにくくなります。
1. 循環・ろ過の有無を見る
浴槽の湯を再利用しているかどうかを確認します。かけ流しを重視する人にとって、最初に見るべき項目です。
2. 加水の有無を見る
源泉100%を重視するなら、加水の表示がないか確認します。加水がある場合は、温度調整や湯量調整など、その理由も読めると判断しやすくなります。
3. 加温の有無を見る
源泉の温度と、浴槽での温度管理は別です。加温ありでも、かけ流しのことはあります。
4. 入浴剤・消毒の有無を見る
香りや浴感、衛生管理に関わる部分です。自分が何を重視するのかを決める材料になります。
さらに余裕があれば、源泉の温度、湧出量、泉質、浴槽ごとの違いも確認します。大浴場は循環式でも、露天風呂はかけ流しというように、同じ宿の中で浴槽ごとに湯使いが違うこともあります。
「館内すべての浴槽が源泉かけ流し」とは限らないため、表示の対象がどの浴槽なのかを確認することも大切です。貸切風呂、露天風呂、内湯、足湯で、使用する源泉や管理方法が異なる場合があります。
公式サイトの宣伝文句と現地掲示を照らし合わせる
宿の公式サイトでは、短い言葉で魅力を伝える必要があります。そのため、紹介文には「源泉かけ流し」とだけ書かれ、細かな処理方法は省略されていることがあります。
予約前に確認したい場合は、次のような情報を探します。
- 温泉ページにある「湯使い」の説明
- 浴場ごとの循環・ろ過の有無
- 加水・加温の有無と、その理由
- 消毒方法
- 源泉の温度と浴槽の温度
- 浴槽ごとに異なる管理方法
サイトに十分な説明がなければ、宿へ質問しても構いません。聞く内容は難しくありません。「こちらの浴槽は循環式ですか」「加水はありますか」「源泉100%という表示は、加水なしという意味ですか」と尋ねれば、必要な情報は確認できます。
返答の内容だけでなく、質問に対して具体的に説明してくれるかどうかも、宿を選ぶ際の参考になります。温泉の管理方法を丁寧に案内できる宿は、湯に対する考え方も伝わりやすいものです。
「加水・加温=悪い」と決めつけない
源泉の温度は、宿が選べるものではない
温泉の魅力を語るとき、「何も手を加えていない湯ほど良い」と考えたくなる気持ちは分かります。しかし、源泉をそのまま浴槽へ入れれば、誰にとっても快適とは限りません。
高温の源泉は、そのままでは長く入れないことがあります。温度が低い源泉は、季節や外気の影響で、入浴に適した温度を保てないことがあります。源泉の湯量が限られている場合は、浴槽の大きさや供給方法を調整しなければなりません。
加水や加温は、湯を薄めるためだけ、施設の都合だけで行われるとは限りません。利用者が無理なく入浴できる温度を保つため、設備を安定して運用するために必要な場合もあります。
大切なのは、処理があるかないかを一刀両断することではなく、なぜその処理をしているのかを確認することです。
消毒も、温泉の価値とは別に考える
消毒についても同じです。
温泉らしい香りや、湯口から流れ続ける新鮮な湯を重視する人にとって、消毒の有無は大きな関心事でしょう。一方で、多くの人が利用する浴槽では、衛生を維持するための管理が必要になります。
消毒を行っているから、温泉ではない。循環式だから、価値がない。そう単純に結論づけると、宿が安全のために行っている管理まで見落としてしまいます。
逆に、消毒なしと表示されている場合でも、それだけで無条件に安心できるわけではありません。湯の入れ替え頻度、清掃、浴槽の構造、利用者数など、衛生状態に関わる要素は複数あります。表示は判断材料のひとつであり、すべてを代わりに判断してくれるものではありません。
自分の目的に合う湯を選ぶ
温泉選びでは、何を最優先するかを先に決めておくと、表示に振り回されません。
- 源泉の成分を薄めていないことを重視する
「源泉100%」や加水なしの表示を確認する。
- 浴槽の湯が常に入れ替わることを重視する
循環・ろ過なし、かけ流し、放流式などの表示を確認する。
- 熱すぎない湯に長く入りたい
加水や熱交換、加温の有無と、実際の湯温を確認する。
- 衛生管理を重視する
消毒の有無だけでなく、施設の清掃や管理方法も見る。
- 肌への刺激を避けたい
泉質、pH、温度、入浴上の注意を確認する。
温泉の「良さ」は、表示の数が少ないことや、処理が一切ないことだけで決まるものではありません。硫黄の香りが強い湯が好きな人もいれば、無色透明で刺激の少ない湯を好む人もいます。源泉の濃さを楽しみたい人もいれば、温度を整えた湯にゆっくり入りたい人もいます。
宿選びで見落としやすい細かな違い
同じ宿でも浴槽ごとに湯使いが違う
温泉宿の紹介文は、施設全体の魅力をまとめて伝えることが多いものです。しかし、実際には浴槽ごとに管理方法が異なる場合があります。
内湯は循環式、露天風呂はかけ流し。大浴場は加温あり、貸切風呂は加水なし。男湯と女湯で浴槽の構造や湯量が違う。こうしたケースは珍しくありません。
予約前に「この宿はかけ流し」と理解していても、目当ての浴槽が対象外なら、期待していた湯とは違うかもしれません。
確認するときは、施設全体ではなく、次のように浴槽を特定して尋ねると確実です。
- 露天風呂は源泉かけ流しか
- 内湯に循環・ろ過設備はあるか
- 貸切風呂は加水しているか
- 源泉100%の表示はどの浴槽に適用されるか
- 浴槽ごとに消毒方法は異なるか
湯口から出ている湯のすべてが源泉とは限らない
湯口から湯が流れていると、それがすべて源泉だと思いがちです。しかし、循環式の浴槽でも、湯口から湯が出ていることはあります。
源泉を新たに補給しながら、浴槽内の湯を循環させている施設もあります。湯口からの流れだけで、かけ流しかどうかを判断することはできません。
目で見て分かるのは、湯の色、香り、湯口の形、浴槽からのあふれ方など、限られた情報です。最終的には、掲示や宿の説明を確認する必要があります。
「天然温泉」と「源泉」の違いにも注意する
「天然温泉」という言葉から、源泉が浴槽へそのまま届いていると考える人もいます。しかし、天然温泉であることは、温泉法上の温泉を利用していることを示す表現であって、かけ流しや加水なしを意味するものではありません。
天然温泉でも、加水、加温、循環・ろ過、消毒を行うことがあります。源泉を使っていることと、源泉100%であることも別です。
温泉表示を読むときは、次の言葉を一つのグループとして扱わないことが肝心です。
- 天然温泉:温泉を利用していることを示す表現
- 源泉:温泉が湧き出す場所、またはそこから引いた湯
- 源泉かけ流し:浴槽の湯を循環再利用しないことを示す表現として使われる
- 源泉100%:加水していないことを示す表現として使われることが多い
似た言葉が並ぶからこそ、役割を分けて読んでいきます。
温泉表示は、宿の価値を決める点数表ではない
温泉の掲示を読むとき、つい「加水なし、加温なし、循環なし、消毒なし」の宿を最高点として見てしまうことがあります。
確かに、源泉の状態をできるだけ保った湯に入りたい人にとって、そうした表示は魅力的です。ただ、それがすべての人にとって最善とは限りません。
熱い湯が苦手な人にとっては、温度を調整した浴槽のほうが入りやすいでしょう。肌への刺激が気になる人は、泉質やpHを見ながら選んだほうがよいかもしれません。衛生管理への安心感を重視するなら、必要な消毒を行っている施設を選ぶことにも意味があります。
温泉表示は、宿を一列に並べて順位づけするための点数表ではありません。自分の好みや体調に合う湯を見つけるための情報です。
また、温泉の成分が強いからといって、長時間入浴すれば効果が高まるわけでもありません。泉質や温度によっては、短めの入浴から様子を見るほうが安心です。浴場の掲示に入浴上の注意があれば、そこも確認しておきましょう。
宿の魅力は、湯だけで決まるものでもありません。浴槽の手入れ、脱衣所の清潔さ、湯上がりに休める場所、スタッフの説明、食事や客室の落ち着き。源泉の表示は、その中の大切な一項目ですが、宿全体を見る入口でもあります。
表示の言葉から、湯の使い方を想像する
「源泉100%」と「源泉かけ流し」の違いは、次のように考えると整理できます。
「源泉100%」は、源泉に別の水を加えていないかどうかに目を向ける言葉です。成分を薄めていないことを重視する表示として使われますが、循環・ろ過や消毒の有無まで含むとは限りません。
「源泉かけ流し」は、浴槽の湯を循環再利用していないかどうかに目を向ける言葉です。新しい湯を注ぎ、あふれた湯を排出することが基本ですが、加水や加温、消毒を行う場合があります。
「源泉100%かけ流し」は、両方の特徴を強調する表現です。ただし、温泉法による全国一律の表示区分ではないため、4項目の掲示と一緒に確認する必要があります。
表示を読むときに大切なのは、言葉を疑うことではありません。言葉がどこまでを説明しているのか、その範囲を見極めることです。
湯の個性を知ることが、宿選びを変える
温泉旅行では、泉質名だけを見て宿を決めるよりも、源泉がどのように浴槽へ届いているかまで分かると、旅の満足度が変わります。
源泉の温度が高い土地なら、熱交換や加水による調整が必要かもしれません。湯量が豊富な宿では、大きな浴槽でもかけ流しを維持できるかもしれません。反対に、湯量が限られている場合は、循環設備を使いながら安定した入浴環境を整えている可能性があります。
どの方式にも、設備上の理由と管理上の工夫があります。
広告の一言を見て「本物かどうか」を決めるのではなく、源泉の温度、湯量、浴槽の構造、加水や加温の目的をたどっていく。そうすると、宿がどんな考えで湯を管理しているのかが見えてきます。
温泉表示の見方を覚えることは、宿を疑うためではありません。自分が入りたい湯を、自分の基準で選ぶためです。
次に温泉宿を予約するときは、「源泉かけ流し」と書かれているかだけで判断せず、加水、加温、循環・ろ過、入浴剤・消毒の4項目を探してみてください。源泉100%という言葉があれば、加水なしを意味しているのか、どの浴槽に適用されるのかも確認します。
湯けむりの中で感じる心地よさは、表示の華やかさだけから生まれるものではありません。どんな湯が、どのように管理され、どんな状態で浴槽に注がれているのか。その背景まで分かれば、宿の湯はもう少し奥行きを持って感じられるはずです。
「源泉100%」と「源泉かけ流し」は、どちらが上という単純な話ではありません。成分を薄めないことを選ぶのか、浴槽の湯を循環させないことを選ぶのか。加温や消毒を含め、何を大切にする宿なのかを表示から読み取り、自分の体調と好みに合う一湯を選ぶ。
そのひと手間が、温泉旅をただ湯に入るだけの時間から、その土地の水と地熱を味わう旅へ変えてくれます。
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