
駅前の活気と、青春の甘み
郡山旅の足音がようやく地に着いたなら、まず手にしたいのが「クリームボックス」です。1970年代に市内のパン店で生まれ、学校の売店でも長く親しまれてきたこの一品は、厚切りに焼き上げた小ぶりの食パンに、白いミルククリームを惜しげもなく塗り重ねたもの。大正13年創業の老舗「大友パン店」では、今もこのスタイルが大切に受け継がれており、ふわりと柔らかなパン生地と、けしてしつこくないやさしい甘さのクリームが、口の中でふっとほどけていきます。ぱりっと焼けた耳の食感と、とろりとしたクリームの対比がたまりません。買い物の合間や、宿に向かう前の朝に頬張れば、ぱっと目の覚めるような高揚感が、散策の足取りを軽くしてくれるはずです。
もう一つ、駅前で出会えるのが「郡山駅前らーめん 角麺」の「郡山ブラック」です。醤油がおりなす真っ黒なスープは、見た目の力強さとは裏腹にすっきりとした後口。10時間かけて炊き上げただしのあっさりとした旨味と、あおさの磯の香りが幾重にも重なっていく、郡山ならではの一杯です。角麺のコシとスープの絡みを確かめながら啜れば、新幹線を降りたばかりの旅の緊張感が、ふわりとほどけていくような心地よさがあります。
土地の恵みと、手仕事のぬくもり
少し郊外へ足を延ばして逢瀬公園へ向かえば、「おうせ茶屋」で「キャベツ餅」が迎えてくれます。炒めたキャベツにつきたての餅を絡めた、逢瀬町周辺で長く家庭の味として食べ継がれてきた郷土料理です。農作業の合間や、人が集まる場で親しまれてきたそうで、じゅわっと広がるキャベツの甘み、餅のもちもちとした弾力、そして醤油の香ばしさが、どこか実家の台所を思い出させるような懐かしさを連れてきてくれます。公園の木漏れ日の中、ベンチに腰かけて頬張れば、心の芯までじんわり温まっていくようです。
そして郡山のもう一つの誇りが、猪苗代湖から引いた安積疏水の清らかな水を活かして古くから育てられてきた鯉です。JR郡山駅から徒歩約5分の「居酒屋 安兵衛」では、この地ならではの鯉を、刺身やなめろう、唐揚げポン酢など多彩な表情で味わうことができます。臭みの少なさときめ細やかな脂の甘さを確かめながら、味噌と薬味を合わせた鯉のなめろうには、ぜひ福島の地酒を合わせてみてください。薄暗い店内に漂う酒と炭火の香りのなか、旅の夜のテーブルが、ふっと奥行きを増していくのを実感できるはずです。
持ち帰る、郡山の秋の記憶
旅の余韻をそのまま自宅まで持ち帰るなら、逢瀬町の「ふくしま逢瀬ワイナリー」へ足を運んでみるのがおすすめです。郡山産のぶどうを使ったワインをはじめ、福島県産のりんごや梨を活かしたシードル、リキュール、ジュースなどが並びます。2026年4月には、醸造施設の中を上から見渡せる「空中見学通路」が完成したそうで、ぶどうがワインになっていく現場を、安全で清潔な環境のもとで見学できるとあって、秋の行楽日和に合わせて足を運びたくなります。定番の「ふくしまももSPARKLING」は、桃をまるごと頬張ったときのような華やかな香りとやさしい甘さ、きめ細かな泡がグラスの中で静かに踊ります。
帰宅後の夜、部屋の灯りを少しだけ落として、ゆっくりとグラスを傾けてみてください。きっとグラスの中で弾ける泡の一粒一粒に、郡山の秋の日差しや、街角を歩いたときの空気の匂いが、鮮やかに重なってくるはずです。路地裏の小さなパン屋さんで出会ったクリームボックスの甘さも、郊外で頬張ったキャベツ餅の温かさも、こうしてグラス越しに思い出すと、また別の滋味を帯びてくるから不思議ですね。秋の旅は、普段は忙しさにかき消されがちな、小さな町の台所の匂いや、商店街の昼下がりの喧騒を、こうして一杯のスープや一口のお酒を媒介に、ふっと呼び戻してくれる時間でもあります。
「次にどこへ旅しよう」と迷った夜には、ぜひ郡山の名を思い出してみてください。新幹線でふらっと足を延ばせる距離に、こんなにも多彩で心温まる味が揃っているのですから。